Light Field Photography

 Lytroが先に発表したlight field cameraは、デジタル写真技術に革新をもたらすものとして注目されています。
 light field cameraの特徴的な点は、従来のカメラが被写体から照射されカメラへと到達した光線の位置情報のみを記録するのに対し、light field cameraは光線の位置情報だけでなく光線の進む方向に関する情報も記録する点にあります。Lytroのカメラはこの特徴を用いて撮影後にピント合わせを行うことができる画期的なものとなっています。まだ試したことのない方は是非Lytroサンプル画像で遊んでみてください。画像中の好きな場所をクリックするとそこにピントが合う様子にはきっと驚かれることでしょう。

 ここでは、このカメラの背景にある技術"Light Field Photography"について簡単に紹介したいと思います。Light Field Photographyは、従来のデジタル写真技術を改良・拡張するComputational Photographyという技術分野に分類され、その中でlight field(光照射野)を記録するための技術です。light fieldとは、空間中に存在する全ての光線の量を説明するための表現です。その他、この分野で使用される用語の概要を以下にまとめておきます。

  • plenoptic :ある空間に存在する全ての光線を扱う光学。一般にplenoptic cameraはlight field cameraと同じ意味で用いられる。
  • plenoptic function :ある空間に存在する全ての光線の光線方向に沿った輝度を表す関数。一般に三次元空間上の座標(x,y,z)と光線方向(θ,φ)の5つのパラメータで定義される5次元関数(5D plenoptic function)として利用される。
  • 4D light field :plenoptic functionと同様に、ある空間に存在する全ての光線の光線方向に沿った輝度を表す関数。一般に2つの平面上に存在する2点(u,v),(s,t)の組で定義される4次元関数。5D plenoptic functionから光線方向に沿った冗長軸を削減したため次元が一つ落ちている。(光線方向の輝度の減衰は通常無視できるため)

 さて、Light Field Photographyでは4D light fieldを記録することが特徴になっていますが、この4D light fieldを記録することに一体どのようなメリットがあるのでしょうか。上記のように、4D light fieldは「ある空間に存在する全ての光線の光線方向に沿った輝度を表す関数」ですので、これが完全に記録できれば後から光線の様々な状態を参照することができます。具体的な応用例は次の二つです。

  1. リフォーカス(refocusing) :ピントを合わせる位置を仮想的に変更することができる。
  2. 視点移動(moving observer) :写真を撮影する位置を仮想的に移動させることができる。

ここで「仮想的」と記載しているのは、これらは撮影後のデジタル処理によって実現していることから、撮影時に物理的にピントや撮影位置を変更しているわけではないためです。また、ピントの変更範囲や撮影位置の移動範囲は有限で、カメラの光学系の設計に依存している点に留意してください。

 Lytroのカメラに話を戻すと、この商品は上記のリフォーカス機能を前面に押し出したものとなっています。原理的には視点移動も可能なはずですが、恐らくリフォーカスほどインパクトがない上に移動範囲が狭いことが予想できるので、触れていないのかそもそも機能として盛り込んでいないのでしょう。

 次回はLytroのCEO、Ren Ngの論文を元にplenoptic cameraの原理について見ていこうと思います。